難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究 厚生労働省難治性疾患政策研究事業

対象とする病気

原発性胆汁性胆管炎(PBC)

最終更新日:2019年3月4日

1.どのような病気ですか?

肝臓は「人体の工場」といわれるほどいろいろな働きをしていますが、その中の一つに胆汁という消化液をつくるという働きがあります。胆汁は肝臓の中の肝細胞という細胞によってつくられたあと、胆管を通り、いったん胆嚢で蓄えられた後十二指腸に流れこみます。
原発性胆汁性胆管炎(げんぱつせいたんじゅうせいたんかんえん)という病気は、肝臓の中のとても細い胆管が壊れる病気です。英語ではPrimary Biliary Cholangitisといい、頭文字をとってPBC(ピー・ビー・シー)と呼ばれています。肝臓の中のとても細い胆管が壊れるため、胆汁の流れが通常よりも少し滞ってしまい、血液検査をするとALPγGTPなどの胆道系酵素が通常よりもかなり高い数値になります。さらに、血液の中に抗ミトコンドリア抗体(AMA)という自己抗体が検出されるのがPBCの特徴です。

~最近のトピックス(1):PBCの病名が2016年に変わりました~

以前、PBCは「原発性胆汁性>肝硬変(Primary Biliary Cirrhosis)」と呼ばれ、「肝硬変」という言葉が入っていました。これは、PBCという病気が発見されたころは初期の段階での診断ができず、肝硬変の状態まで進行し、様々な症状が出始めて初めてPBCとの診断がついた時代の名残です。すなわち、以前はPBCと診断された患者さんのほとんどは肝硬変まで進行していた方だったのですが、現在はもっと手前、無症候性の段階で診断がつき、実際には肝硬変まで進展していない場合がほとんどです。つまり、「原発性胆汁性肝硬変」という病名は多くの患者さんの病状とはかけ離れていたわけです。このため病名を変えるべきであるという議論がなされ、2015年にまずヨーロッパ・アメリカの学会で、Primary Biliary Cirrhosisという病名からPrimary Biliary Cholangitisに変更されました。これを受けて、日本でも2016年に「原発性胆汁性肝硬変」から「原発性>胆汁性胆管炎」という病名に正式に変更されました。難病申請に使用される診断書などではまだ「原発性胆汁性肝硬変」という病名が用いられていますが、これも順次切り替えられる予定です。

2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

私たち研究班が2018年に行った調査によると、PBCと診断される患者さんは全国でおよそ37,000人と推定され、その数は年々増加しています。ただ、増加しているのは比較的軽症の患者さんで、重症の方が増えているわけではありません。

3.この病気はどのような人に多いのですか

中年以降の女性に多い病気です。男女比は約1:4で、20歳以降に発症し、50~60歳に最も多くみられます。子どもが発症することはまずありません。

4.この病気の原因はわかっているのですか

この病気の原因はまだわかっていませんが、胆管が壊れる原因として免疫反応の異常、すなわち、自己免疫反応が関与する自己免疫疾患であることが、国内外の研究で明らかになりつつあります。PBCでは、自己免疫反応によって胆管が攻撃されると考えられています。

5.この病気は遺伝するのですか

PBCの患者さんの子供が同じPBCになることはほとんどありません。しかし、同一親族内(親子、姉妹等)ではPBCの患者さんの頻度が比較的高いことなどから、糖尿病や高血圧、癌がそうであるように、PBCの発症にはやはり遺伝の影響があると考えられます。国内外の研究により、PBCの発症に関与している遺伝子がいくつか見出されています。

6.この病気ではどのような症状がおきますか

現在PBCと診断される方の多くはまだ病気が進行しておらず、肝硬変へ至っていません。この段階であれば肝臓の中の胆汁の流れは多少滞ってはいるもののまだまだ十分に保たれていますし、肝臓の働きも正常ですので、自覚症状はほとんどありません。ただ、このような軽い段階の方でも、およそ30%程度の患者さんは中等度から重度の皮膚のかゆみを自覚しておられることが分かっています。
この段階でPBCと診断されず、治療が行われない場合、さらに進行していきます。すなわち、肝臓の中の小さな胆管がさらに破壊され、胆汁の流れが一層悪くなります。すると、胆汁に含まれる成分が血液中に逆流するため全身の強いかゆみが起こります。また、食道・胃静脈瘤という合併症も起こります。強い疲れやすさやだるさを感じることもあります。肝臓の中では胆管だけではなく肝細胞も破壊され、徐々に肝硬変へと進行します。また、食物中のビタミンDを吸収するために必要な胆汁が流れにくくなるため、ビタミンDが吸収されにくくなり、特に閉経期の女性では骨粗鬆症が進行しやすくなります。また、やはり胆汁が流れにくくなる結果血中コレステロールが上昇し、目の周りに脂肪が沈着する眼瞼黄色種ができることもあります。
さらに肝臓の働きが低下すると、黄疸、浮腫(むくみ)や腹水、肝性脳症を発症して肝不全となり、肝移植を行わない限り救命できない状態に陥ってしまうこともあります。一部の患者さんでは肝臓に癌ができることもあります。
一方、自己免疫を起こしやすい体質の方では胆管だけではなく他の組織・細胞も自己免疫によって攻撃されることがあるため、PBCには他の自己免疫疾患がしばしば合併することが知られています。日本ではPBCの約15%の方に涙や唾液が出にくくなり、口や眼が乾燥するシェ-グレン症候群、約5%に関節リウマチ、慢性甲状腺炎が合併するとされており、これら他の自己免疫疾患の症状が目立つ場合もあります。

~最近のトピックス(2):「症候性」PBCはもっと多い?~

先に述べたように、私たちが大きな病院を対象として行っている全国調査の結果では、PBC全体の中で何らかの症状のある「症候性」PBCは全体の30%程度という結果となっています。しかし、これは医師が記入した調査票に基づく結果であり、患者さんに調査票を配布して自らの症状について細かく記載していただくという方法によって調査を行うと、全く症状がない患者さんが30%に過ぎず、何らかの症状のある患者さんは70%に及ぶという結果が出ています(図2)。医師は、皮膚のかゆみ、口の渇き、疲れやすさなど、患者さんの自覚症状にはなかなか気が付きにくいものです。逆に患者さんがこのような症状がPBCの症状であるということを知らず、医師に話していない場合もあります。症状があるかどうか、症候性かどうかということは、指定難病であるPBCの場合医療費助成の対象となるか否かを決める重要な要件ですので、何らかの症状を自覚している場合には、その症状がなんであってもともかく主治医に話してみてください。

(図2)自記式調査票によるPBC患者さんの症状(肝臓、2016)

7.この病気にはどのような治療法がありますか

PBCの治療は、胆汁の流れを良くして肝硬変への進行を抑えるというPBCそのものに対する治療と、PBCに伴って生じる症状や合併症に対しての治療に大別できます。
1)PBCそのものに対する治療としては、ウルソデオキシコ-ル酸という薬に胆汁の流れを促進し病気の進行を抑える働きがあることが分かり、現在PBCに対して世界中で使われています。ウルソデオキシコール酸だけで十分に肝機能障害が改善しない場合、わが国ではベザフィブラートという薬がしばしば使われます。ベザフィブラートはPBCに対する使用は正式には認められてはいませんが、私たち研究班はベザフィブラートとウルソデオキシコール酸との併用によって、PBCの長期予後が改善されている可能性を確認しています。
2)PBCに伴って生じる症状や合併症に対しての治療としては、まず強いかゆみに対して抗ヒスタミン薬が使われます。最近は肝臓病で起こるかゆみに対する新しい薬(ナルフラフィン塩酸塩)が開発されており、PBCのかゆみについても一定の効果が認められています。ビタミンDの吸収障害による骨粗鬆症に対しては、ビスホスホネート製剤やデノスマブなど多くの薬が開発されています。
3)PBCが進行して肝硬変に至った場合は、他の原因による肝硬変と同じ治療を行います(食道・胃静脈瘤、腹水、肝性脳症の項参照)。しかし、これら様々な内科的治療を行ってもなおその効果がみられない場合、肝移植治療を検討します。身内に肝臓を提供する方がいらっしゃる場合は生体部分肝移植が行われます。また、脳死肝移植を受けられる方も少しずつ多くなってきていますが、この場合脳死肝移植の登録が必要となります。いずれにしても肝移植治療にあたっては、主治医によく相談された上で専門の施設に紹介してもらうことをお勧めします。PBCの場合、肝移植を行った後の経過は良好です。

~最近のトピックス(3):PBCに対するウルソデオキシコール酸以外の薬~

PBCに対して有効であることが紛れもなく確認されているのはウルソデオキシコール酸だけですが、ウルソデオキシコール酸が十分効かないPBC患者さんがおよそ30%おられます。この方々に対する治療をどうするかということがここ数年世界的な課題となっており、10種類以上の新薬の治験が行われ、あるいは予定されています。2016年にはアメリカとヨーロッパでオベチコール酸という薬が有効であることが分かり、正式に承認されました。ただ日本ではオベチコール酸の治験は行われる予定がありません。前述のように日本ではベザフィブラートの併用を行ってきましたが、2018年フランスのグループからベザフィブラートの有効性を示した研究が発表され、注目を集めています。また、PBC患者さんのかゆみを改善することを目的とした治験も行われています。

8.この病気はどういう経過をたどるのですか

ウルソデオキシコール酸が使用されるようになってから、PBCの経過は明らかに改善しました。ほとんど症状のない無症候性PBCの患者さんでは、これらの薬を飲み続けていただくことによって、病気のない方と同じく日常生活を送り天寿を全うすることができるようになっています。ウルソデオキシコール酸の効果が十分でない場合でも、上記のようにベザフィブラートを併用することによって、病気が進行し悪化してしまうことはかなり少なくなっています。

9.この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

ほとんど症状がなく、血液検査だけに異常がみられるという無症候性PBCの方は、薬を飲み続けていただければ日常生活の中で特別の注意は必要ありません。安静にする必要はありませんし、お仕事も普通にしていただいて結構です。むしろ最近では、肥満に注意していただくため、食事のエネルギー制限や適度な運動が必要な方が増えています。ただ、薬の服用を止めてしまうと病気の進行が進む可能性がありますので、病院への定期的な通院と薬の服用は続けてください。
病気が進行して肝硬変の状態に至ってしまった場合には、食事や運動など日常生活の中でもう少しきめ細かい注意が必要になりますので、主治医の先生とよくご相談してください。

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