
肝臓は「人体の工場」といわれるほどいろいろな働きをしていますが、その中の一つに胆汁という消化液をつくる働きがあります。胆汁は肝臓の中の肝細胞でつくられたあと、胆管を通り、いったん胆嚢で蓄えられた後に、十二指腸に流れこみます。
原発性胆汁性胆管炎(げんぱつせいたんじゅうせいたんかんえん)という病気は、肝臓の中の細い胆管が壊れる病気です。英語ではPrimary Biliary Cholangitisといい、頭文字をとってPBC(ピー・ビー・シー)と呼ばれています。肝臓の中の細い胆管が壊れるため、胆汁の流れが通常よりも滞ってしまい、血液検査をするとALPやγGTPなどの胆道系酵素が通常よりも高い数値になります。さらに、血液の中に抗ミトコンドリア抗体(AMA)という自己抗体が検出されるのがPBCの特徴です。
病気が発見されたころは初期の段階での診断ができず、肝硬変の状態まで進行し、様々な症状が出て初めて診断がつくことが多かったため、以前PBCは「原発性胆汁性肝硬変(Primary Biliary Cirrhosis)」と呼ばれていました。現在は症状がない状態で診断がつき、実際には肝硬変まで進展していない場合がほとんどであるため、ヨーロッパ・アメリカの学会でPrimary Biliary Cirrhosisという病名からPrimary Biliary Cholangitisに変更されたことをうけて、2016年に「原発性胆汁性肝硬変」から「原発性胆汁性胆管炎」という病名に正式に変更されています。
私たち研究班が2018年に行った調査によると、PBCと診断される患者さんは全国でおよそ37,000人と推定され、その数は年々増加しています。ただし増加しているのは軽症の患者さんで、重症の方が増えているわけではありません。
中年以降の女性に多い病気です。男女比は約1:4で、20歳以降に発症がはじまり、50~60歳に最も多くみられます。70歳をこえて発症することも少なくありません。一方で子どもが発症することはまずありません。
この病気の原因はまだわかっていませんが、胆管が壊れる原因として免疫反応の異常、すなわち、自己免疫反応が関与することが(自己免疫疾患)、国内外の研究で明らかになりつつあります。
PBCの患者さんの子供が同じPBCになることはほとんどありません。しかし、同一親族内(親子、姉妹等)で患者さんの頻度が比較的高いことなどから、PBCを発症しやすい体質、すなわち遺伝的な要因があると考えられています。国内外の研究により、PBCの発症に関連する遺伝子も複数見出されています。
現在PBCと診断される方の多くは病気が進行しておらず、肝硬変へ至っていません。この段階であれば肝臓の中の胆汁の流れは多少滞ってはいるもののまだ十分に保たれていますし、肝臓の働きも正常ですので、自覚症状はほとんどありません。ただしこのような軽い段階の方でも、およそ30%程度の患者さんは中等度以上の皮膚のかゆみを自覚しておられることが分かっています。
この段階でPBCと診断されず治療が行われない場合、さらに進行していきます。すなわち、肝臓の中の小さな胆管がさらに破壊され、胆汁の流れが一層悪くなります。すると胆汁に含まれる成分が血液中に逆流するため、全身の強いかゆみがさらに起こりやすくなります。強い疲れやすさや、体のだるさを感じることもあります。お腹の中の血液の流れに変化が起こり(門脈圧亢進症)、食道・胃静脈瘤という合併症も起こります。肝臓の中では胆管だけではなく肝細胞も破壊され、徐々に肝硬変へと進行します。食物中のビタミンDを吸収するために必要な胆汁が小腸に流れにくくなるため、ビタミンDが吸収されにくくなり、特に閉経期の女性では骨粗鬆症が進行しやすくなります。胆汁が流れにくくなる結果血中コレステロールが上昇し、目の周りに脂肪が沈着する眼瞼黄色種ができることもあります。
さらに肝臓の働きが低下すると、黄疸、浮腫(むくみ)や腹水、肝性脳症を発症して肝不全となり、肝移植を行わない限り救命できない状態に陥ってしまうこともあります。一部の患者さんでは肝臓にがんができることもあります。
一方、自己免疫を起こしやすい体質の方は、胆管だけではなく他の組織・細胞も自己免疫によって攻撃されることがあるため、PBCには他の自己免疫疾患がしばしば合併することが知られています。日本ではPBCの約15%の方に涙や唾液が出にくくなり、口や眼が乾燥するシェ-グレン症候群、約5%に関節リウマチ、慢性甲状腺炎が合併するとされており、これら他の自己免疫疾患の症状が目立つ場合もあります。
先に述べたように、私たちが大きな病院を対象として行っている全国調査の結果では、PBC全体の中で何らかの症状のある「症候性」PBCは全体の30%程度という結果となっています。しかし、これは医師が記入した調査票に基づく結果であり、患者さんに調査票を配布して自らの症状について細かく記載していただくという方法によって調査を行うと、全く症状がない患者さんが30%に過ぎず、何らかの症状のある患者さんは70%に及ぶという結果が出ています(図2)。医師は、皮膚のかゆみ、口の渇き、疲れやすさなど、患者さんの自覚症状にはなかなか気が付きにくいものです。逆に患者さんがこのような症状がPBCの症状であるということを知らず、医師に話していない場合もあります。症状があるかどうか、症候性かどうかということは、指定難病であるPBCの場合医療費助成の対象となるか否かを決める重要な要件ですので、何らかの症状を自覚している場合には、その症状がなんであってもまずは主治医に話してみてください。

PBCの治療は、胆汁の流れを良くして肝硬変への進行を抑えるというPBCそのものに対する治療と、PBCに伴って生じる症状や合併症に対しての治療に大別できます。
1)PBCそのものに対する治療としては、ウルソデオキシコ-ル酸という薬に胆汁の流れを促進し病気の進行を抑える働きがあることが分かり、現在PBCに対して世界中で使われています。ウルソデオキシコール酸だけで十分に肝機能障害が改善しない場合、わが国ではベザフィブラートという薬がしばしば使われます。ベザフィブラートはPBCに対する使用は正式には認められてはいませんが、私たち研究班はベザフィブラートとウルソデオキシコール酸との併用によって、PBCの長期予後が改善されている可能性を確認しています。
2)PBCに伴って生じる症状や合併症の中で、かゆみに対しては最初に抗ヒスタミン薬が使われることが多いです。効果がない場合、日本では肝臓病で起こるかゆみを軽減する薬(ナルフラフィン塩酸塩)が使用でき、PBCのかゆみについても一定の効果が認められています。ビタミンDの吸収障害による二次性骨粗鬆症に対しては、ビスホスホネート製剤やデノスマブなど多くの薬が使用されています。
3)PBCが進行して肝硬変に至った場合は、他の原因による肝硬変と同じ治療を行います(食道・胃静脈瘤、腹水、肝性脳症の項参照)。しかし、これら様々な内科的治療を行っても、なおその効果がみられない場合、肝移植治療を検討します。身内に肝臓を提供する方がいらっしゃる場合は生体部分肝移植が行われます。また、脳死肝移植を受けられる方も少しずつ多くなってきていますが、この場合は脳死肝移植の登録が必要となります。いずれにしても肝移植治療にあたっては、主治医によく相談された上で専門の施設に紹介してもらうことをお勧めします。PBCの場合、肝移植を行った後の経過は良好です。
~トピックス(2):PBCに対するウルソデオキシコール酸以外の薬~
PBCに対して有効であることが紛れもなく確認されているのはウルソデオキシコール酸だけですが、ウルソデオキシコール酸が十分効かないPBC患者さんがおよそ30%おられます。この方々に対する追加治療をどうするかということが世界的な課題であり、複数の新薬の治験が行われてきました。2024年にはアメリカとヨーロッパでエラフィブラノール、セラデルパーという2つの薬が有効であることが分かり、ウルソデオキシコール酸の併用薬として承認されました。現在、日本でもその薬効を評価する治験が行われています。一方で日本では前述のようにベザフィブラートの併用を行ってきましたが、2018年フランスのグループからもベザフィブラートの有効性を示した研究が発表され、現在は世界各国で使用されることも少なくありません。また、PBC患者さんのかゆみを改善する新薬リノレキサバットも2026年にアメリカで承認されています。以上の新薬が、ウルソデオキシコール酸が十分に効かない患者さん、現行の抗かゆみ薬の効果が乏しい日本の患者さんに届く日も遠くないと考えられます。
ウルソデオキシコール酸が使用されるようになってから、PBCの経過は明らかに改善しました。症状のない無症候性PBCの患者さんでは、これらの薬をしっかりと期限を設けずに飲み続けていただくことによって、病気のない方と同じように日常生活を送り、天寿を全うすることができるようになっています。ウルソデオキシコール酸の効果が十分でない場合でも、上記のようにベザフィブラートを併用することによって、病気が進行し悪化してしまうことはかなり少なくなっています。
ほとんど症状がなく、血液検査だけに異常がみられるという無症候性PBCの方は、薬を飲み続けていただければ、日常生活の中で特別の注意は必要ありません。安静にする必要はありませんし、お仕事も普通にしていただいて結構です。むしろ最近では、肥満に注意していただくため、食事のエネルギー制限や適度な運動が必要な方が増えています。ただし、ウルソデオキシコール酸やベザフィブラートは病気の勢いと進行を抑えるための薬ですので、服用を止めてしまうと肝臓での病気の状態が元に戻るだけでなく、一気に進む可能性もあります。薬の服用を忘れずに、病院への定期的な通院を続けてください。
病気が進行して肝硬変の状態に至ってしまった場合には、食事や運動など日常生活の中できめ細かい注意が必要になりますので、主治医の先生とよくご相談してください。