難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究 厚生労働省難治性疾患政策研究事業

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特発性門脈圧亢進症

最終更新日:2016年12月9日

1.概念・定義
特発性門脈圧亢進症(idiopathic portal hypertension:IPH)とは、脾腫、貧血、門脈圧亢進を示し、しかも原因となるべき肝硬変、肝外門脈・肝静脈閉塞、血液疾患、寄生虫症、肉芽腫性肝疾患、先天性肝線維症などを証明し得ない疾患をいう。通常、肝硬変に至ることはなく、肝細胞癌の発癌母地にはならない。
1883年にG.Bantiは、肝硬変のような明らかな原因がなく、著明な脾腫と門脈圧亢進をきたす原因不明の疾患で、この疾患の本態は脾臓にあり、病理学的特徴として脾臓内にはfibroadeniaが認められると報告した。
1967年にBoyerらは、Banti病の中で肝硬変を除外し、門脈圧が上昇し、著明な脾腫をきたす原因不明の疾患の存在を報告し、idiopathic portal hypertension、IPHと命名しその疾患概念を確立した。
 

2.疫学
IPHは比較的稀な疾患で、年間有病者数は920人(95%信頼区間:640~1、070)であり、このうち約18%が年間の新発生患者数である。厚生労働省特定疾患門脈血行異常症調査研究班による全国疫学調査の結果では、都会に比し農村地帯にやや多い傾向がみられる。また、食生活では、欧米型より日本型の場合にやや多発傾向がある。男女比は約1:3、発症のピークは40~50歳代で、平均年齢は49.4歳(男性41.7歳、女性51.9歳)である。
 
3.病因
本症の原因は不明で、肝内末梢門脈血栓説、脾原説、自己免疫異常説などがある。本症と肝炎ウイルス(B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルス)との関連についてはPCR法を用いた最近の詳細な検討の結果否定的である。一方、本症は、中年女性に多発し、血清学的検査で自己免疫疾患と類似した特徴が認められ、自己免疫疾患を合併する頻度も高いことからその病因として自己免疫異常が考えられている。
厚生労働省特定疾患の研究班の報告では、IPH患者末梢血リンパ球を用いた抑制性T細胞(Ts)機能の検討で、Ts機能の低下を認め、また、自己免疫性疾患と同様、自己リンパ球混合培養試験(autologous mixed lymphocyte reaction;AMLR)で著しい低下が認められている。したがって、IPHにおいてはT細胞の自己認識機構に問題があると考えられている。また、本症患者の末梢血リンパ球及び脾臓細胞で、Vβ9T細胞レセプター(TCR)をもつT細胞が有意に増加していることが報告されている。また、Vβ9陽性T細胞を直接活性化するスーパ一抗原が存在することが分かってきており、本症病因の解明に期待が持たれている。さらに、本症患者の血清中のCTGF(connective tissue growth factor)値が高値を示すことが報告されており、本症の病因として注目されている。
 
4.治療
IPHの治療対象は、門脈圧亢進症に伴う食道胃静脈瘤出血や腹水貯留と、脾機能亢進に伴う汎血球滅少症である。
(1)静脈瘤に対する治療
・静脈瘤破裂による出血はバルーンタンポナーデ法、ピトレッシン点滴静注などで対症的に管理し、すみやかに内視鏡的治療(内視鏡的硬化療法、静脈瘤結紮術)を行う。
・保存的処置で止血した症例では内視鏡的治療の継続または待機手術を考慮する。
・未出血の症例では内視鏡所見を参考にして予防的な内視鏡的治療ないし手術を考慮する。
(2)脾機能亢進に対する治療
 血球減少が高度の症例では部分脾動脈塞栓術や脾摘術を考慮する。
 
5.予後
IPH患者の予後は良好であり、静脈瘤出血がコントロールされるならば肝癌の発生や肝不全による死亡はほとんどなく、5年及び10年累積生存率は80~90%と極めて良好である。また、長期観察例での肝実質の変化は少なく、肝機能異常も軽度である。
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