肝臓から流れ出る血液を運ぶ肝静脈か、あるいはその先の心臓へと連なっている肝部下大静脈の閉塞ないしは狭窄によって、肝臓から出る血液の流れが悪くなり、門脈の圧が上昇し、門脈圧亢進症等の症状を示す疾患をいいます。
年間約300人前後の人がこの病気で病院に通院あるいは入院しています。また、人口100万人当たり2.4人の有病率であろうと推定されています。
男性にやや多く、男女比は1.6:1です。平均発症年齢は男性36歳、女性47歳と、男性の方が若い年齢で発症する傾向があります。
肝静脈あるいは肝部下大静脈の先天的な血管形成異常や、後天的な血栓等が原因として考えられていますが、原因不明のものも約70%を占めており、何故この部分の血管が詰まりやすいのか、はっきりしたことはわかっていません。また、基礎疾患として、血液疾患、経口避妊薬の服用、妊娠・出産、腹腔内感染、血管炎、血液凝固異常等を合併している症例も多いといわれています。
最近、血液凝固異常に関する遺伝子異常の有無が注目されて、現在この点に関して重点的に研究が行われています。
原則として遺伝しないものとされていますが、遺伝子異常の有無が注目されているため、一部の患者さんでは先天的な素因の関与が疑われており、この点に関しては現在研究の途上です。
門脈の圧が上昇すると、門脈血の一部が肝臓に向かわずに他の方向に逃げるようになります。このようにしてできた新しい血液の流通経路を側副血行路と総称します。この側副血行路のために、脾臓が大きくなったり、腹壁の静脈が怒張したり、食道や胃に静脈瘤ができたり、腹水がたまったりします。脾臓が大きくなると脾機能亢進症という状態になり、貧血や血小板、白血球の減少をきたすようになります。また、静脈瘤の圧が上昇すると、静脈の血管がその圧に耐えきれなくなり、破裂・出血し、吐血・下血等の症状が出ます。
バッド・キアリ症候群の主な症状として腹水、下腿浮腫・下肢静脈瘤、腹壁静脈怒張、門脈圧亢進症状としての胃・食道静脈瘤、脾腫、貧血等があります。
バッド・キアリ症候群では、肝静脈や肝部下大静脈の閉塞ないし狭窄による症状と、門脈圧亢進症による症状が治療の対象となります。
1)静脈の閉塞ないし狭窄に対して
諸検査で血栓が確認されれば血栓を溶解させるために抗凝固療法を行います。また、その病態に応じて、狭窄部のバルーンカテーテルによる狭窄部拡張術や、あるいは、閉塞・狭窄を直接解除するような手術を選択します。
2)門脈圧亢進症に対して
胃・食道静脈瘤が破けて出血した際には緊急の処置が必要です。放置すると出血のためショックとなり、場合によっては生命が危険にさらされる可能性があります。このような場合は直ちに最寄りの救急病院を受診し、点滴・輸血によりショックを治療予防します。内視鏡を使った静脈瘤からの出血に対する止血処置等を受けなければなりません。
3)静脈瘤に対する止血処置
薬物療法
バルーンタンポナーデ法
内視鏡的治療:硬化療法、結紮療法
手術療法:食道離断術、Hassab手術など
バッド・キアリ症候群は症状の出現の仕方により、急性型と慢性型に分けられます。急性型の症状は重篤で、腹痛、嘔吐、急速な肝臓の腫大、腹水の貯留等で発症し、多くが1ヶ月以内に死亡します。しかし、この型は本邦では極めて少なく、大部分は慢性型の患者さんで占められます。慢性型は多くの場合無症状で経過し、次第に下腿浮腫、腹水、腹壁静脈怒張等を認めます。このような慢性型のバッド・キアリ症候群の場合、胃・食道静脈瘤からの出血が十分にコントロールされれば経過は良好です。
久留米大学先端癌治療研究センター・分子標的部門
鹿毛 政義
メールアドレス:masakage@med.kurume-u.ac.jp