難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究 厚生労働省難治性疾患政策研究事業

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自己免疫性肝炎(AIH)

最終更新日:2019年3月1日

1.概念・定義

自己免疫性肝炎(Autoimmune hepatitis: AIH)は中年以降の女性に好発する原因不明の肝疾患である。病因に自己免疫機序が関与することが想定され、遺伝的素因に何らかの環境因子が関与して発症すると考えられている。臨床的には①AST、ALTの持続的上昇、②抗核抗体、抗平滑筋抗体などの自己抗体陽性、③血清IgG高値、の3点を特徴とする。症状を伴わないまま、健診などたまたま行われた血液検査でAST、ALTの上昇を契機として発見されることが多いが、中には急性肝炎様に黄疸を伴い発症することがある。この場合、自己抗体陽性やIgG上昇など特徴的な所見を示さない症例が少なくなく、AIHとの診断がつかないまま急激に進展、肝不全へと進行する場合がある。関節リウマチなど他の自己免疫疾患を合併することも稀ではない。
多くの症例では、副腎皮質ステロイド投与が極めて良く奏効し、AST、ALTは速やかに基準値内へと改善する。しかし一部の症例では副腎皮質ステロイド抵抗性を示す。
組織学的には、典型例では慢性肝炎像を呈し、門脈域の線維性拡大、同部への単核球浸潤を認め、浸潤細胞には形質細胞が多いことが特徴である(図1)。肝実質における多数の巣状壊死、帯状・架橋形成性肝壊死もしばしばみられ、また肝細胞ロゼット形成も特徴的所見である。門脈域の炎症が高度の場合には胆管病変も伴うことがあるが、胆管消失は稀である。初診時既に肝硬変へ進展している症例もある。

 図1. interface hepatitis

2.疫学
2018年に厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班(以下、厚労省研究班)が行った全国疫学調査によると、全国のAIH患者数は推定約30,325名、人口10万人当たりの有病率は23.9であった。2004年に行った全国疫学調査では推定患者数9,533名、有病率8.7であり、14年間でおよそ3倍に増加し、ほぼ欧米並みとなっている。男女比は2004年に約1:7であったが2018年には約1:4であり、相対的に男性患者が増加している。この疫学調査とは別に厚労省研究班が定期的に行っている全国調査では、診断時年齢が徐々に上昇していることも明らかにされており、直近の調査では診断時平均年齢はおよそ60歳であった。

3.病因・病態
AIH発症の原因は現在なお不明であるが、抗核抗体などの自己抗体陽性、高IgG血症、他の自己免疫疾患の合併、副腎皮質ステロイド治療に対する良好な反応性などから、免疫寛容システムの破綻による自己免疫機序の関与が想定されている。肝内浸潤リンパ球はT細胞優位であり、肝細胞に対する自己反応性T 細胞の活性化とそれを抑制すべき免疫制御性T細胞の機能異常による細胞性免疫異常が肝細胞障害の主因と考えられている。特定の遺伝因子を持つ個体(遺伝要因)に、何らかの誘因(環境要因)が加わって発症すると推定されているが、肝細胞における自己免疫応答の標的抗原はいまだに同定されておらず、本疾患に特異的な自己抗体も同定されていない。

4.症状
AIHに特異的な症状はない。自覚症状を全く伴わず、偶然に健康診断などで肝障害を指摘され受診する症例が一般的である。ただし、自記式調査票を用いた調査では、AIH患者は高率に全身倦怠感、易疲労感、食欲不振等の症状を自覚し、生活の質が低下していることが報告されている。肝障害が著明な場合は黄疸等の他覚症状がみられる。また、高齢者などでは診断時から浮腫、腹水などの肝硬変に伴う症状がみられることもある。近年では長期予後の改善に伴い、従来AIHでは稀と考えられていた肝細胞癌を発症することがある。

5.診断

(1)診断指針・スコアリングシステム
AIHは、国際診断基準を参考としつつ、厚労省研究班が作成した診断指針(表1)に従って診断する。
①厚労省研究班の診断指針
2013年に厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班によりAIHの診断指針が改訂された。この診断指針は、日本における最新の全国調査の結果も加味して作成されており、日本人のAIHの診断には有用と考えられる。なお、本診断指針では診断的治療としての副腎皮質ステロイド治療への反応が良好であった場合肝生検を行わずともAIHの診断が可能となっているが、これはあくまで例外であり、診断には肝生検を施行し組織学的検索を行うことが必須である。

表1. AIH診断指針

②改訂版国際診断基準・スコアリングシステム
日本を含む世界各国のAIH研究者から構成される国際AIHグループ(IAIHG)は1999年に改訂版国際診断基準を発表した。このスコアリングシステムは肝組織所見を含む13項目の検討項目について各々点数をつけ総合点で診断するもので、その診断感受性は97~100%と極めて高いことが国内外で検証されている。しかし、判定すべき項目数の多いことが日常診療で汎用するうえでの問題点である。また、この診断基準の作成目的は、AIHの病態、治療研究の対象となる症例の抽出であり、日常診療における利用を必ずしも念頭においたものではないことに留意する必要がある。したがって、日常診療でのAIH診断にあたっては、過度に本スコアに固執すべきではないとIAIHGも注意喚起を行っている。
③簡易型国際診断基準・スコアリングシステム
改訂版国際診断基準は検討項目数が多く日常診療での利便性に欠けるとの批判を受け、IAIHG は2008年に4項目からなる簡易型国際診断基準を作成した。本スコアで疑診以上ならば、免疫抑制薬の治療開始を考慮してもよい。本スコアはPBCの鑑別能は低いが、PBCであっても本スコアによりAIHと診断される場合は副腎皮質ステロイド治療も考慮すべきである。一方、非定型的症例の診断の見落としが生じる可能性があることも示唆されている。本診断基準でも肝組織の確認が必須である。

(2)重症度分類(表2)
AIHの重症度分類が厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班により定められている。2013年版では、重症と判定される際の臨床検査所見項目を「①ASTまたはALT>200 U/L+③プロトロンビン時間<60%」、または「②ビリルビン>5mg/dLまたは③」としていたが、肝硬変症例の場合肝酵素及びビリルビン上昇が高度でない症例も存在することから、2016年に「③」のみ、と改訂した。

表2. AIH重症度分類

6.鑑別診断
ウイルス性肝炎、および肝炎ウイルス以外のウイルス感染(EBウイルス、サイトメガロウイルスなど)による肝障害、健康食品による肝障害を含む薬物性肝障害、非アルコール性脂肪性肝疾患、他の自己免疫性肝疾患などとの鑑別を行う。特に薬物性肝障害や非アルコール性脂肪性肝疾患では抗核抗体が陽性となる症例があり、詳細な薬物摂取歴の聴取や病理学的検討が重要である。

7.治療

副腎皮質ステロイドが第一選択薬である。ALTおよびIgG値の正常化、さらに組織学的炎症と線維化の改善が持続することを目標とする。経口プレドニゾロン0.5~1.0mg/kg/日(軽症では30~40mg/日、中等症以上では50~60mg/日)で開始し、ALTおよびIgGの低下を確認しながら漸減する。早すぎる減量は再燃の原因となるため、プレドニゾロン 5mg/2週(15mg/日以下では2.5mg/2-4週)を減量の目安とする。通常5~10mg/日のプレドニゾロンにより維持療法を行う。肝硬変へ進展している場合でも副腎皮質ステロイドの反応性は同等であり、治療により予後は改善するため、副作用を恐れて副腎皮質ステロイド治療をためらってはならない。
合併症や副作用のために副腎皮質ステロイドを使用できない、あるいは用量を抑える必要がある症例では、当初よりアザチオプリン(2018年7月AIHに対して保険適用となった)を併用し、プレドニゾロン20mg/日+アザチオプリン50~100mg/日で治療を開始する。プレドニゾロン単独により治療を開始した場合は中途からアザチオプリンを併用してもよい。これらの場合でもプレドニゾロンを漸減し、できれば中止して、アザチオプリン50~100mg/日単独を維持療法とする。副腎皮質ステロイド薬には、骨粗鬆症、易感染症、糖尿病の発現・悪化、白内障・緑内障、神経症、満月様顔貌など、多彩な副作用が知られている。ことに、AIHはもともと骨密度が低下しがちな中年以降の女性に好発するため、プレドニゾロン長期投与に伴う骨粗鬆症のリスクが高い。定期的に骨密度をチェックし、低下している場合には積極的にビスホスホネート製剤やデノスマブの投与を行う。アザチオプリンでは骨髄抑制が起こることがあるため注意が必要である。なお、日本ではウルソデオキシコール酸が使用されることがあり、ALT低下など一定の生化学的改善効果は認められるが、ウルソデオキシコール酸によるAIHの長期予後改善効果は示されていない。
維持療法を中止すると高率にAIHが再燃するため原則として治療は中止すべきではないが、ALTかつIgGの正常化が得られてから2~3年以上経過しており、患者の希望がきわめて強い場合には、再燃のリスクが高いことを十分説明し、可能であれば肝生検を行い組織学的にも炎症が消失していることを確認した上で、治療中止を慎重に試みてもよい。再燃した場合も初回治療と同様に副腎皮質ステロイドないしアザチオプリンによる治療を行う。
重症の急性肝炎や急性肝不全例ではステロイドパルス療法や肝補助療法(血漿交換や血液濾過透析)などの特殊治療を要するため、迅速に対応可能な施設へ搬送する。非代償性肝硬変や劇症肝炎で内科的治療が無効な場合は肝移植の適応につき移植外科医へコンサルトする。

8.ケア
副腎皮質ステロイドが高用量(20mg/日以上)の場合は感染予防など日常生活において一定の注意が必要だが、ALT・IgGが正常化し維持療法中であれば、仕事や旅行を含め日常生活に特別の注意は必要ない。下記の通り予後は良好であることを患者にきちんと伝え、無用の不安を抱かせないよう留意する。ただ、生化学的改善が得られても全身倦怠感や疲労感など自覚症状が存在しうるため、患者の訴えによく耳を傾け、また副腎皮質ステロイドの副作用にも注意する。
妊娠中はトランスアミナーゼが改善または正常化することが多く、治療薬の減量や中止が可能になる場合もある。しかし、出産後の急激な血中エストロゲン値の低下に伴いAIHの急性増悪を示す症例があり、注意が必要である。なお、妊娠時においてもプレドニゾロン5~10mg/日程度の投与であれば通常胎児に影響はない。また、従来妊婦に対するアザチオプリンの使用は禁忌とされてきたが、妊婦に対する一定の安全性が確認されたため、2018年7月にアザチオプリンの添付文書が改訂され、「禁忌」から「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与」という記載に変更されたため、妊婦への投与も可能となった。

9.食事・栄養
副腎皮質ステロイド治療中には副作用として食欲亢進や肥満、脂質異常症、糖尿病などが現れることがあるため、適切な食事摂取量を心がけ、脂肪・糖質の取りすぎに注意し、体重管理に努めるよう指導する必要がある。肝硬変へ進展した症例では他の成因による肝硬変同様栄養指導などを行う。

10.予後
副腎皮質ステロイドないしアザチオプリンにより適切な治療が行われ、ALTおよびIgGが持続正常化したAIH症例の予後は概ね良好であり、生存期間は一般人口と同等である。しかし、適切な治療が行われない場合、あるいは治療反応性が不良で再燃を繰り返す場合には肝硬変・肝不全へと進行し得る。
長期予後の改善に伴い、AIHでもことに肝硬変例では肝発癌が認められるため、定期的な画像検査(腹部超音波、CT、MRIなど)が必要である。繰り返す再燃は肝発癌のリスクを増加させる。

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