肝臓や門脈に特別な病変が存在しないにもかかわらず、門脈の圧が上昇し、胃・食道静脈瘤が発生し、脾臓の腫大、貧血等の症状を呈する疾患のことです。
年間有病者数は640~1,070人程度であり、このうち約18%が年間の新発生患者数です。本邦においては人口100万人当たり7.3人の有病率であろうと推定されています。欧米より日本にやや多い傾向があり、また、都会より農村に多い傾向があります。
男性より女性の方が3倍ほど多く、また、発症年齢のピークは40~50歳代です。
正確な原因は不明ですが、中年女性に好発し、血液検査で免疫異常が認められることがあることから、何らかの自己免疫異常(自分自身の体に対して自分の免疫が働く状態)という病態の関与が推測されています。更に最近の研究により、血液中の一部のリンパ球の働きの異常が指摘されています。現在このような免疫の異常に関して重点的に研究が行われており、今後の解明が期待されます。
遺伝性に関して明らかなデータはありません。ただし、自己免疫異常という病態は、一般的に家系内に多発する傾向があることから、何らかの素因(遺伝子異常)の関与が否定できません。この点に関しても現在研究が行われています。
門脈圧が上昇すると、脾臓が大きくなり腹水が貯まります。さらに、門脈圧の上昇により門脈血の一部が肝臓に向かわずに他の方向に逃げるようになります。このようにしてできた新しい血液の流通経路を側副血行路と言います。この側副血行路のために腹壁の静脈が怒張し、食道や胃に静脈瘤ができます。脾臓が大きくなると脾機能亢進という状態になり、貧血をきたすようになります。また血小板も少なくなり、出血した時に血液が止まりにくくなります。また、静脈瘤の圧が上昇すると、静脈の血管がその圧に耐えきれなくなり、破裂・出血してしまい、吐血・下血等の症状が出ます。出血のためショックになり死亡することもあります。
特発性門脈圧亢進症では、門脈圧亢進症にともなう胃・食道静脈瘤と、脾機能亢進症にともなう貧血(汎血球減少症:赤血球、白血球、血小板の全てが減少してきます)が治療の対象となります。 静脈瘤が出血した際には緊急の処置が必要です。放置すると出血のためショックとなり、場合によっては生命が危険にさらされる可能性があります。このような場合は直ちに最寄りの救急病院を受診し、点滴・輸血などの救急処置をした上で、静脈瘤からの出血に対して内視鏡を使った出血処置を受けなければなりません。
1)静脈瘤に対する止血処置
2)脾機能亢進症に対する治療
特発性門脈圧亢進症では肝機能は一般に正常のことが多いので、胃・食道静脈瘤からの出血が十分にコントロールされれば経過は良好です。
久留米大学先端癌治療研究センター・分子標的部門
鹿毛 政義
メールアドレス:masakage@med.kurume-u.ac.jp